A-2 水源の質的安全・安心評価

A-2
水源の質的安全・安心評価

※ 動画が入ります

内容・方法・活動

微生物マーカーなどを用いて山地渓流水の利用において懸念される野生動物由来の糞便性汚染を定量化し、飲用水源としての「安全性」を確保する。また、汚染物質の同位体情報を活用して、小さな源流域でも素性の明らかな水を利用できる「安心感」を提供する。さらに、水源水質の時間的な変動性も考慮しながら、水の質的安全・安心を確認するために必要となる水質分析の頻度に関する情報も提供する。

結果

山梨県甲州市塩山、高知県高知市土佐山、奈良県奈良市須川町の対象地域において水文・水質トレーサーである各種安定同位体を用いた小規模水源の水の流動プロセス及び水質の特性の把握により水源設置に必要な量と質の安定性に関する検討を実施した。3地域に分布する小規模水源の水質組成(主要溶存化学成分)に関する水質マップ(図A-6)を作成し、住民と共有、溶存成分の高低をイメージすることで地域の水文・水質特性についての共同理解に努めた。その結果、住民による水源への理解と興味を深めることができ、水質劣化等のネガティブな情報の共有についても、客観的な理解を促すことができた。

図A-6 山梨県甲州市・高知県土佐山・奈良県須川町の地域の小規模水源の水質組成

その結果、住民による水源への理解と興味を深めることができ、水質劣化等のネガティブな情報の共有についても、客観的な理解を促すことができた。特に、シナリオフェーズで確認した地域の小規模な水源における窒素混入による水質劣化の可能性については、高感度で観測ができる窒素安定同位体の観測を実施し、濃度は低いものの人畜を起源とする窒素の混入が確認された水源も確認された(図A-7)。

図A-7 山梨県甲州市・高知県土佐山・奈良県須川町の小規模水源に含まれる
硝酸イオンの窒素・酸素安定同位体比

また、微生物マーカーを用いて山地渓流水の利用において懸念される野生動物由来の糞便汚染を定量化し、飲料水源としての安全性を確保する技術の提供を可能にした 。

上述の水質に関する情報を調査実施地域の住民へフィードバックした。
この情報共有については、単純な水質基準との比較だけではなく、その土地の農業活動やくらし(生活排水)に起因すると考えられる水質の劣化(窒素負荷や微生物の検出)も含め情報共有を行なった。

その結果、地域水資源の流れやそれに伴う汚染物質の流入についての考察が住民との間でなされ、そこで得られた理解から地域水資源への安心評価がなされた。さらに、今回の調査によって理解できた水質や水文特性から、「地域の水資源をどのように(何に)使うか」についてのアイデアが地域住民から提示されるに至り、小規模水源の活用に対して前向きな思考が創出された。加えて、科学調査への理解が深まり、研究開発に関する協力が継続して得られるようになった。

【追加】
能登半島地震の後、身近にある河川や井戸,水路を水源として用水供給する分散型給水システムと、人工湿地(干潟ガーデン)による植物栽培と排水処理を両立させる技術を 能登のニーズのある地域で実装する活動を始めた。2024 年1 月以降、地域住民らと話し合いを継続しどちらの小さな水技術の活動についても、大きな水インフラの短期的復旧に対して中長期的な復興デザインを視野に入れた地域との共同研究として試行錯誤すること、小さな水と大きな水が共存する多元給水・多元排水の形を目指すこと、日常的に利用されることで非常時にも機能するフェーズフリーの考えを重視することで意見が一致した。水源グループでは本事業において他地域で実施してきた水文水質調査や水源マップづくりのノウハウを活用して自宅避難者が残る輪島市三井町ならびに珠洲市真浦町で住民と共に水源調査を実施し、分散型給水システムの導入に適した水源の把握を行なった。三井町において、震災後のボランティア支援により設置された簡易井戸(掘削深度5 m)程度については、農業由来の汚染や溶存鉄(金気)の混入があり、小型給水システムの適用には向いていないことがわかった(図A-8)。

図A-8 発災後に急設置された浅井戸の水質

一方、町内の小規模な水源調査の実施により広域水道が配備される以前から地域で用いられていた井戸や湧水、沢水は量、質共に緊急給水水源として利用可能であることが認められた(図A-9)。

図A-9 輪島市三井地区の小規模水源の水質組成

しかし、水質のみを重視すると、アクセスが困難な人里を離れた山中に水源を求めることとなるため、持続可能な小規模の水源の開発には、管理のためのアクセスが容易な暮らしに近い水源を選定し、分散型給水システムを用いた中長期的な水源活用に重要であるという結論に至った。そして、三井町の試験地では、対象施設に隣接する水路の水を水源に選定し、取水(サガソカ~トロカ)・浄水・給水(ダソカ)の一連のシステム(モバロカ)の実装につながった。

復旧困難地域とされた珠洲市真浦町では、地形が変化してしまうほどの大規模な山崩れが複数箇所で発生しており、これにより生じている表流水の濁りが大きな課題となっていた(図A-10)。

図A-10 珠洲市真浦地区の小規模水源の濁度の分布

住民と共に水源探索を実施したところ、土砂崩れの生じていない水源も複数箇所存在することが明らかとなった。この中でも広域水道が配備される以前に使用していた旧集落水道の水源は、水質ならびに管理や取水状況を考慮しても安定した水源となることが確認された。しかしながら、給水が急がれる20247月当時では、最も近い水源からの取水を優先することが住民の意向であり、給水拠点となる民家の直近の山の沢水が流れる水路を水源として分散型給水システム・モバロカを設置することになった。この水路は濁りが強いものであったが、モバロカの運転条件を改善することで民家への給水に成功した(詳細はC-2で後述)。20249月の豪雨災害で同地域の活動は休止中だが、今後は、より良質で安定した旧集落水道の水源も含めて中長期的な活動を続けることを確認した。

特記事項

水源探索において、住民との共同調査と結果のフィードバックは、住民が理解する地域の水資源の価値との擦り合わせにおいて極めて有効で、水文水質特性を理解することで、たとえ水質劣化の可能性が指摘された場合においても、地域の水資源の価値の再認識と活用方法が創発されるなどの効果が得られるなど、小規模水源の活用を目的とした水源探索において重要であるといえる。また、三井町や真浦町の被災地域における水源探索で共通した点は、広域水道配備以前に使用していた地域の伝統的な小規模水源は、水質や維持管理を考慮しても優れた水源となることが確認でき、こうした水源の再生はモバロカ適用において重視すべき点であると結論づけることができた。

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