C-1 経験価値を考慮した社会的効用の評価

C-1
経験価値を考慮した
社会的効用の評価

※ 動画が入ります

内容・方法・活動

シナリオ創出フェーズで開発した水サービスの機能価値(安全・安心・安定)の効用モデルを元に、経験価値(心の豊かさ)も含む社会的効用創出モデルを開発する。
経験価値は、互助ネットワーク「共創の場」を創出し、技術の循環と人の循環における共体験を通じて創出されるものである。実際に、どれだけの効用が創出されるかはヒアリングなどを通じて把握する。
経験価値は、集中型水サービスでは、共創の場や共体験の機会が少ないため創出されにくく、分散型水サービスではうまく共創の場や共体験が提供できれば創出される。
集中型水サービスを想定した広域化やコンパクト化では、公益的機能を考慮した効用も推計する。
共創の場や共体験の機会を提供することによる効用も評価し、「小さな水サービス」導入の有効性を広く明らかにする。
以上の社会的効用創出モデルの多地域展開を検討するため、必要な情報を整理する。それらが取得できれば、どれだけの社会的効用が創出されるか予測でき、実際に多地域展開を行うかの判断ができる。

結果

社会的効用創出モデルによる水インフラ維持の評価にあたり、まず集中型水サービスおよび分散型水サービスそれぞれの供給に関わる物理的費用を推計した。費用の推計には、有収水量あたりの費用である給水原価を用いた。

𝑧 = 𝑥/ 𝑤 + 𝑦

(式C-1-1)

ただし、𝑧:給水原価[円/m3]、𝑥:年間の減価償却費[円]、𝑦:他の単位費用[円/m3]、𝑤:年間の有収水量[m3]。

浄水施設や管路などの固定資産は、需要が減少しても直ちに節約できない。そのため、一般に、減価償却費は有収水量(水需要量)に左右されない固定費用として扱われる。それ以外の支払利息、人件費、修繕費、動力費、薬品費、委託費、受水費などは、水供給量が減少すればそれに伴い削減できることから、可変費用として考慮する。


山梨県甲州市では2020 年4 月に、それまでの上水道2 事業と簡易水道10 事業の経営および会計が統合され、甲州市水道事業になった。

そこで、公表データである統合前(2020 年度以前)の旧上水道事業と、統合後の2020(令和2) 年度の甲州市水道事業のそれぞれの会計データから、旧上水道事業と旧簡易水道10 事業の給水原価を推計した。対象地域の概要図は図C-1- 1 のとおりである。

図C-1-1 山梨県甲州市給水区概要

なお、甲州市にはこれ以外に小規模水道が16 事業あるが、データが少なく推計ができなかった。

推計の結果、旧上水道および旧簡易水道の給水原価は、旧上水道が190 /m3、旧簡易水道が406 /m3 となり、旧簡易水道の給水原価は旧上水道の約2.14 倍になることがわかった。

C-1-2 に各給水原価とその内訳を示す。

これより、旧簡易水道の給水原価の中で大きな割合を占めるものが、減価償却費と受水費(峡東地域広域水道企業団より導水。単価:105 /m3)であることがわかる。

図C-1-2 旧上水道と旧簡易水道の給水原価

さらに、給水区別の給水原価とその費用内訳を推計した(図C-1-3)。
ただし、距離の離れた山間部の塩山一ノ瀬(旧簡易水道)は除いている。

C-1_figureC-1-3
図C-1-3 給水区別給水原価

C-1-23 の結果は、旧簡易水道地域において、管路および浄水施設などの施設統合を行わないケース、すなわち集中型水サービス供給ではなく、現状の分散型水サービス供給を維持した場合のシミュレーションと解釈できる。
その場合、峡東地域広域水道企業団から受水している地区では、給水原価が比較的抑えられていることがわかる。それ以外の地区は給水原価が高く、その要因としては高い減価償却費の影響が挙げられる。
そして、その減価償却についても、③塩山裂石、⑤塩山上手林は管路費用、⑧から⑩の大和地区は電気・機械の費用の高いことがわかる。大和地区は山間部であり、ポンプアップしている可能性があり、そのため電気・機械費用が高くなったものと推察される。

次に、旧簡易水道地域での広域化シミュレーションを実施した。
ここでは、峡東地域広域水道企業団から受水している②塩山玉宮から北東方面への管路整備を行い、③塩山裂石でも受水できるようにした場合、またその途中の上萩原配水地まで管路整備を行い、②塩山玉宮全体で受水できるようにした場合の検討を行う。③塩山裂石のケースは、新規の導水管整備が必要になる。そこで、管路整備距離を推計し、一般的な管路の建設費用と維持費用の原単位を乗じることにより整備費用を求めた結果、その費用は40 億円ほどになった。その費用から減価償却費を算出した結果、塩山裂石地区は人口がかなり少ないため、追加の単位費用は2,304 /m3 とかなり高額になった(図C-1-4)。

一方、上萩原配水地まで管路整備を行い、②塩山玉宮全体で受水できるようにする場合では、管路の整備費用が塩山裂石のケースより8,000 万円ほど減額になることに加え、塩山裂石より人口が多いことから、追加の単位費用は165 /m3 になった(図C-1-5)。裂石までの管路延長と比較すれば安価である。

図C-1-4 受水を塩山裂石まで延長したケース
図C-1-5 受水を塩山玉宮全体に拡張したケース

しかし、現行の給水原価にさらに費用が追加されることから、利用者負担の増加する恐れの高いことがわかる。以上の結果を踏まえると、旧簡易水道においては、峡東地域広域水道企業団からの受水を活用した広域化による集中型水サービス供給より、現状の分散型水サービス供給を維持した方が望ましいことが示唆された。

さらに、小規模水道地区についても、集中型および分散型の各水サービスの導入費用を推計し比較する。まず、集中型水サービス供給については、上萩原浄水場から管路を整備し、番屋から小田原橋までと、その途中から上条まで配水する計画とした。
それぞれの管路整備の距離を推計し、一般的な管路の建設費用と維持費用の原単位を乗じて、その整備費用を求めた。分散型水サービス供給については、基本的には現状を維持するケースを想定した。
すなわち、現在、住民がそれぞれの水源を保全し、簡易な浄水施設から配水を行っている。それらの水源および現行で用いられている浄水施設および排水施設、配水管をそのまま利用するものとした。
以上の費用の推計を行い、給水原価を求めた(図C-1-6 および図C-1-7)。

図C-1-6 小規模水道:集中型水サービス
図C-1-7 小規模水道:分散型水サービス

その結果、給水原価が分散型では246 /m3、集中型(広域化)では290 /m3 となった(図C-1-8 の下段)。また、給水区ごとの給水原価を示したものが図C-1-8 である。

C-1_figureC-1-8
図C-1-8 小規模水道:集中型と分散型の給水原価の比較

給水区によっては、広域化による集中型の費用が低くなるケースがみられるものの、平均すると集中型より分散型の費用の方が低くなることが明らかになった。

最後に、旧簡易水道地域や小規模水道地域それ自体を今後も維持していくべきかを客観的に評価するため、公益的機能を考慮した社会的効用の計測方法を検討した。例えば農業や林業では、公益的機能が直接もたらす「物理的効用」と、豊かな自然や強固な人的ネットワークのある郊外部での居住によって得られる「心理的効用」に分けられる。

ここでは、農業の公益的機能のうち水サービスに関わる洪水防止機能と水資源涵養機能を取り上げ評価した。その結果、山梨県全体で160.6 億円/年の物理的効用がもたらされていることが明らかになった(表C-1-1)。

C-1-1 山梨県の農業の公益的機能がもたらす物理的効用の評価結果

C-1_tableC-1-1

続いて、公益的機能の物理的効用の計測に用いてきた経済(SCGE)モデルの結果を利用して、居住による心理的効用の計測を試みた。

まず、各地域の家計の効用水準を比較した。
C-1-2 は、甲府都市圏と各地域との効用差を、便益の概念に基づき貨幣換算し、居住による心理的効用の計測を試みた結果である。これをみると、甲州市の効用が一人あたり85.6 万円/年ともっとも高くなっている。甲州市では、経済的な財・サービス消費から得られる効用水準を甲府都市圏と比較すると大きく下回る。しかし、甲州市に居住することによって人々は心理的効用を得ていると考えられ、その大きさは一人あたり85.6万円/年に達することがわかった。こうした公益的機能を考慮に入れ、過疎地域を今後も維持していくべきかの判断を行う必要がある。

C-1-2 居住による心理的効用の計測結果

特記事項

本研究では、家計の自由な立地選択行動が十分には反映されていない。立地選択行動も反映させた形で居住の心理的効用を計測することが今後の課題である。加えて、大規模集中型の給排水施設(大きな水)と小規模分散型の給排水施設(小さな水)との最適な組み合わせを検討していく必要がある。

人口減による水需要の減少や施設維持のためのマンパワー不足、耐震化などの防災投資の増大などを考えると、費用効率性の面で小さな水の方が優れているケースがあり得る。

また、独立採算を原則とする(=水サービスを商品として提供することを原則とする)大きな水と異なり、地域における自治的な取り組みに支えられている(=水サービスを地域の富として維持する側面をも有する)小さな水は、機能価値(安全・安心・安定)の実現を超えて、経験価値(心の豊かさ)の実現をも視野に収めている。だとするならば、社会的効用最大化の観点から、小さな水をナショナル・ミニマム財政のなかに明確に位置付けることも含め、大きな水と小さな水の最適な組み合わせ、および、それを実現するための行政と住民、中間支援組織など水サービスに関わる各主体の果たすべき役割について探究していく作業が求められる。

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