A-1 水源の量的安定性評価

A-1 水源の量的安定性評価

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内容・方法・活動

現在利用されている小規模水源及び潜在的な小規模水源適地において得られる水量の季節・年変動(10年程度)を推定・予測し、水資源量の「安定性」を明らかにした。なお、水量安定性の将来予測においては、最新の気候変動予測の情報(NIES2020)を利用した。
また、住宅・農地・工場等が調和した地域における生活用水と産業用水を含む水需要を満足するために、水同位体と地下水流動モデルを融合させた手法により、水源探索と水の移動経路の把握を可能にした。
これらの検討を通じて得られる水安定性の情報を、利用水源地図や潜在的水源地図の形式で取りまとめるとともに、Web-GISや携帯端末により構成される「水情報表示・共有ツール」を通じて、地域住民や民間企業及び行政への提供を可能にした。
また、人口分散地域におけるオンサイト水処理のために、対象地域における太陽光発電や小水力発電の開発ポテンシャルの空間分布を明らかにし、これをオンサイト水処理のエネルギー供給の可能性検討の基本情報として整備した。

結果

A-1-1  水源の量的安定性の評価

長期・高解像度の気象・水文データに基づき、小規模水源において得られる水量の季節・年変動を推定・予測し、水資源量の「安定性」を評価する方法を開発した。
シナリオ創出フェーズにおいて開発した高解像度水源賦存量マップにより、対象地域内の潜在的な水資源量分布を把握するとともに、当該地域における水量の年々変動特性を考慮することで、基準渇水流量(Qdf10)マップを作成した。基準渇水流量とは、新たに水利権を許可するに当たっての基準とされる流量であり、通常10年に1回程度の渇水年における渇水流量として定義される。
本検討では、周辺地域内の水文観測所(清水端、桃林橋、石和、亀甲橋)における長期河川流量データから水文統計解析により基準渇水流量を算出するとともに、各水文観測所における基準渇水流量と渇水流量平年値の比(Ivdf)を流域面積(A)と関連づけることで、基準渇水流量の空間分布特性(スケール依存)をモデル化した。
同様に、水量の季節変動特性についても、長期河川流量データから各水文観測所における年平均流量と渇水流量の比の平年値(Sv)を求め、これと各観測所の流域面積(A)との関係を二次関数によりモデル化した。
これらIvdやSvのモデルとシナリオ創出フェーズで開発した高解像度(約30mグリッド)水資源賦存量データ及びグリッド別集水面積データを組み合わせることで、各グリッドにおける基準渇水流量(Qdf10)を算出・地図化した(図A-1 左)。

図A-1 甲州市周辺における基準渇水流量(Qdf10)
(左:現在気候,右:将来気候:MIROC6, SSP2-RCP4.5)

なお、流域水収支の観点から、降雨による地下水涵養量は河川の地下水流出量にほぼ等しく、これは渇水流量にほぼ対応する水量と考えられることから、ここで示した各グリッドのQdf10 は、その地点上流域における持続可能な地下水利用可能量(渇水年においても涵養による地下水補給量を上回らない揚水量)と見なすこともできるため、基準渇水流量マップは表流水のみならず地下水の取水可能性の検討においても有益な情報となり得る。温暖化に伴う気候変動影響を含む将来気候のもとでの水源の安定性評価を行うために、基準渇水流量の将来予測も行った。

 

ここでは、第6 期結合モデル相互比較プロジェクト(CMIP6)データから生成された日本域の高解像度気候予測値(NIES2020)から、モデル地域における水源の量的安定性の将来予測に用いる気象外力データを抽出・整備した。
このデータを用いて、複数の気候モデル(MIROC6, MRI-ESM2-0, ACCESS-CM2, IPSL-CM6A-LR, MPI-ESM1-2-HR)、複数の温暖化シナリオ(SSP1-RCP2.6, SSP2-RCP4.5, SSP5-RCP8. 5) に対応する年降水量の年蒸発散量の変化率(現在気候:2005~2014 年と将来気候:2041~ 2050 年の値の比)を算出し、これをシナリオ創出フェーズで開発した高解像度の降水・蒸発散量データに乗ずることで、将来気候下での降水・蒸発散量を推定した。さらに、これら推定値した気候モデル・温暖化シナリオ別の高解像度水資源賦存量データを式A-1 に適用することで、将来気候下での基準渇水流量マップを作成した。
気候モデル・温暖化シナリオにより、Qdf10 の将来予測値は大きく異なるが、温暖化シナリオ別(5 つの気候モデルに基づく将来予測値の中央値)にみるとSSP1-RCP2.6, SSP2-RCP4.5 ではやや増加傾向、高い温室効果ガス排出量を想定したシナリオSSP5-RCP8.5 では僅かに減少する傾向が確認された(表A-1)。

水源や水供給に関わる人々に対する各種地域水関連情報の提供を可能にするため、ESRI ArcGIS Web-GIS を活用した情報の可視化・共有方法の開発にも取り組んだ。
本検討では、甲州市などの地域レベル、山梨県などの圏域レベル、富士川などの主要流域レベルでデータ収集を行うとともに、それらを表示・共有するツールを複数用意した。これらツール群にはフィールドでの利用も想定したGISアプリケーション、スマートフォンやタブレットでも利用可能な水源可視化アプリ(上流・下流可視化。図A-2)や統合表示アプリ(水源情報ダッシュボード)が含まれている。

図A-2 上下流可視化アプリの表示イメージ

開発したツール群の活用事例の増加、他の水関連情報・データベース(水・地域イノベーション財団「水辺へGo!」など)との連携や掲載データの増補に加え、ツールの操作性や使用感に関するユーザーヒアリングに基づくツールの改善など今後の発展も期待される。

A-1 10年確率渇水流量,太陽光発電ポテンシャル,小水力発電ポテンシャルの現在・将来推計値

また、地下水水源の探索として、地質、地下水質、地下水の水位の既存データ及び水素・酸素安定同位体をトレーサーとした分析結果より、地下水涵養源の解析を実施した。その結果、従来の地下水流動解析では想定し得なかった広域的な地下水流動の可能性を示唆する知見が得られ、解析に修正を加えることで、より正確な地下水流動の把握が可能となった。更に、地方地域における地下水源の開発を見据え、山麓域や山間部における地下水流動解析に着手できる体制を整えるための研究を開始した。山麓域や山間部においては水素・酸素同位体観測による涵養域の推定精度は高くなるため、流動モデルとの融合による地下水資源の探索は有効なものになると考えられる。

A-1-2 太陽光・小水力発電の開発ポテンシャルの評価・地図化

人口分散地域におけるオンサイト水処理での利用を想定した潜在的なエネルギー開発量(太陽光発電量、小水力発電量)の推計と可視化を実施した。

太陽光発電量については、気象衛星ひまわりの観測値に基づく日射量推定値(JAXAひまわりモニタ; 空間解像度約1km, 日平均値, 20162021)と高解像度地理情報をもとに作成される地上受光日射量メッシュデータから太陽光発電ポテンシャルマップを作成したなお、発電量算定に必要となる3成分の日射量(水平面全天日射量、水平面直達日射量、水平面散乱日射量)は、ひまわりモニタデータから抽出した甲州市周辺の全天日射量に対してErbsモデルを適用することで推定し、周辺地形による日射の遮蔽効果(地形遮蔽指標)についてはFu and Rich(2002)の全天可視領域算定アルゴリズムにより評価した。さらに、文献値等をもとに太陽光パネル・システムに関するパラメータ(損失係数、システム容量など)を設定することで、単位面積の太陽光パネルによる発電量データセット(日単位,30m分解能)を作成した(A-2)。解析対象地域内において、ひまわりモニタから得られる入射日射量(年間積算値)の空間最大/最小値の間には約16%程度の差異が見られた一方、地形遮蔽の効果を考慮した太陽光パネル受光日射量についてはその差異が56倍程度にまで拡大することが明らかとなった。このことから、当該地域のような山地を含む領域における太陽光発電ポテンシャルの推計における地形遮蔽効果の考慮の重要性が示唆された。将来気候のもとでの太陽光発電ポテンシャルについては、ひまわりモニタデータに対してNIES2020の日射量データから算出される年平均全天日射量の変化率(現在気候:20052014年と将来気候:20412050年の値の比)を乗じることで日射量の将来予測値を整備し、これをもとに推計を行った(A-3)MIROC6, SSP5-RCP8.5のケースを除き、将来気候のもとで太陽光発電ポテンシャル化は増加する傾向が見られ、その増加幅は1.54.3%程度 (シナリオ別,5つの気候モデルに基づく将来予測値の中央値)と推計された (A-1)

図A-3 甲州市の太陽光発電ポテンシャル
(左:現在気候、 右:将来気候、MRI-ESM2-0、SSP1-RCP2.6)
図A-4 甲州市周辺の小水力発電ポテンシャル
(左:現在気候、 右:将来気候、MIRO C6、SSP2-RCP4.5)

一方、小水力発電ポテンシャルについては、小渓流の河川流量推定値と、高解像度地形データから作成した発電用落差マップを組み合わせることで推計を行った。なお、本検討では、地形データから抽出した集水面積900km2以上の河川グリッドを解析対象として水力発電量を算出した(A-4)。なお、発電量算出に用いる流量については、平水流量を最大使用水量と設定し、各グリッドにおける渇水流量は先述べたSv(A)と高解像度水資源賦存量データから算出し、平水流量、低水流量についても渇水流量と同様の方法で季節変動性をモデル化することで各グリッドでの値を算出した。将来気候のもとでの太陽光発電ポテンシャルについては、将来気候下での高解像度水資源賦存量データを用いて気候モデル・温暖化シナリオごとに算定した。温暖化シナリオ別(5つの気候モデルに基づく将来予測値の中央値)にみるとSSP1-RCP2.6, SSP2-RCP4.5ではやや増加傾向、高い温室効果ガス排出量を想定したシナリオSSP5-RCP8.5では僅かに減少する傾向が確認された(A-1)

特記事項

本検討により、水源の量的安定性を高い空間解像度で評価し、その結果を提供・共有できる仕組みを構築することができた。また、水処理等に必要となるエネルギーの地産地消の実現性を検討する際の基礎データとなる電力開発ポテンシャルの推計方法を示すことができた。本手法は、日本全域で入手可能な気象・水文・地理データセットを入力とし、GISソフト等を利用した低計算負荷での解析・図化を実現した点が特徴であり、全国の様々な地域への展開が容易な汎用性の高い技術である。また、温暖化予測結果と組み合わせることで、水源安定性の将来的な変化も予測・評価も可能となる。

このような水源に関わる空間情報は、平時における小規模給水施設の水源探索に加えて、災害時における緊急給水体制の検討や復興過程での水インフラ復旧・再整備計画にも寄与することが期待される。山間部の小河川の位置が特定できるまでの高解像度データであることから、山峡の集落における代替または緊急の水源探索の基礎情報として利用できると考えられる。また、地震により水インフラが甚大な被害を受けた能登半島地震での経験をもとに、緊急時の給水体制構築に向けた動き(内閣官房水循環政策本部,災害時地下水利用システム開発 など)も見られるが、本検討で示したような水源地図(例えば図A-5)を全国的に整備できれば、災害時水源候補の水資源安定性や防災井戸の機能の日常的なチェックにも役立つ。

図A-5 他地域における水資源賦存量マップの試作(左:山梨県北杜市,右:能登半島)
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