B-1 オンサイト用排水処理のパッケージ化

B-1
オンサイト用排水処理の
パッケージ化

※ 動画が入ります

内容・方法・活動

シナリオ創出フェーズで可能性を検証した水素利用技術による用水処理(結果A)、水素利用技術による排水処理(結果B)と人工湿地による排水処理(結果C)の社会実装に向けた実証試験を進める。太陽光等の再生可能エネルギーを最大限利用し、技術の自立性と持続可能性を複数箇所で確認する。
前フェーズで検証した季節・水質・水量の変化に対する性能安定性に、維持・生涯コスト、消費エネルギー、温室効果ガス排出、ユーザー運転性・管理性、環境教育(水育)効果を加えて、処理性・経済性・環境負荷・運転管理に関する「多元的指標軸」で技術群の持続可能性を比較評価する。

結果

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水素利用の用水処理として、大阪府で発生する地下水汚染の浄化を目指した実証試験を三菱ケミカルアクア・ソリューションズ(株)とともに実施した。シナリオ創出フェーズで開発した処理装置構造の改良や運転条件の最適化を行った。その結果、処理装置に投入する最適微生物担体を選定することができた。また、担体投入によって生じる水素ガス供給効率低下の回避方法として、ナノバブル発生器による水素ガス供給の有効性を新たに見出した。以上から、事業所の用水処理への導入を加速させる結果が得られた。

B-1-2

水素利用の排水処理として水素添加浄化槽を考案し、その社会実装に向けた検討を行った。はじめに、一般世帯で稼働している単独浄化槽の浄化機能の実態・問題点を調査した。山梨県内の2 か所(大月市、都留市)の一般世帯2 軒の単独浄化槽(5 人槽・新構造) を調査対象とし、単独浄化槽沈殿室上澄(流入水)と処理水のBOD および全窒素(TN)濃度を調べた。いずれの浄化槽も保守点検や法定検査を適正に受けていた。2つの浄化槽の流入水中の平均 BOD 濃度は181–197 mg/L であり、処理水中の平均 BOD 濃度は11–28 mg/L であり、BOD 除去率は84.3–94.1%であった(図B-1)。いずれの浄化槽も、単独浄化槽のBOD 濃度基準値(90 mg/L 以下)、合併浄化槽のBOD 濃度基準値(20 mg/L)やBOD 除去率の基準(90%以上)を概ね満たしており、良好なBOD 除去が確認できた。一方で、2 つの浄化槽の処理水中の平均 TN 濃度は137–242 mg/L TN 除去率は5.2–20.0%であり(図B- 1)、単独浄化槽の窒素除去への対応が急務であることが明らかとなった。

図B-1 調査した単独浄化槽の流入水および処理水中のBOD と全窒素(TN)濃度
図B-2 水素ガス供給時間の増加による水素添加浄化槽の溶存態総窒素(DTN)とBOD の処理性能の変化

以上のような単独浄化槽の機能実態を踏まえて、山梨県甲州市内の単独浄化槽処理水に水素添加を付加して窒素除去性能を向上させ、高度処理対応型浄化槽と同等の処理性能を目指す実証試験を実施した(20219月から20221月)。単独浄化槽への水素ガス供給時間の増加により溶存態全窒素(DTN)の除去能力が向上し(図B-2)、また溶解性BODの酸化能力も維持できた(図B-2)。DTN濃度の経時変化を調べると空気供給時間中に濃度が上昇し、その後水素ガス供給時間中に減少しており、窒素成分の酸化と還元除去が達成できていることを確認した。さらに実証試験結果をもとに水素添加浄化槽の初期コストと運転コストを算出し、高度処理対応型浄化槽に交換する場合と比較した(表B-1)。

B-1 高度処理対応型浄化槽への交換と水素添加浄化槽の追加設置のコスト比較

図B-2 水素ガス供給時間の増加による水素添加浄化槽の溶存態総窒素(DTN)とBOD の処理性能の変化

水素添加浄化槽の導入は、約77%の初期コスト削減効果が期待できるが、水素ガスに起因する運転コストにより1年あたりの費用が約10倍増加する試算となった。この水素ガスに起因する運転コストは、現在の水素ガスボンベ価格(5,700/7m320222月時点)では約7.5年分の運転で、またプロパンガス適正価格(3,696/7m320222月時点)まで水素ガス価格が低下した場合では約12年間の運転で初期コストの削減額と同等になった。従って上記の運転期間であれば利用者の経済的負担を低減しながら、汚水中の窒素成分除去が達成できる可能性が示唆された。以上のように、水素利用技術のa. 処理性能、b.コストの多元的指標からその有効性を評価できた。

B-1-3

人工湿地:排水処理を目的としてシナリオフェーズで開発したTidal flow人工湿地については、1)山梨県峡東浄化センター・下水処理場(山梨県甲州市)、2)甲斐大和自然学校・教育宿泊施設(山梨県甲州市)、3)個人住宅合併浄化槽の後段(山梨県甲州市)、4)カンポット村・個人住宅および集会所(カンボジア)、および5)イベント・宿泊施設(奈良県奈良市)において実証試験を実施した。

1)シナリオフェーズで確立した最適条件(浸漬6時間・乾燥2時間の連続Tidal flowサイクル)で山梨県の峡東浄化センター(20208月~20243月)での実証試験1を実施した。
その結果、Tidal flow人工湿地が浄化センターの標準活性汚泥法と同等以上の高い有機物除去能力と窒素除去能力を長期間にわたって安定的に維持することが示された(図B-3)。

図B-3 長期実証試験における人工湿地の流入水と処理水の有機物(DOC)、全窒素(Total-DIN)、アンモニア態窒素(NH4+-N)、亜硝酸態窒素(NO2--N)、硝酸態窒素(NO3--N)濃度のモニタリング(上図)と、期間全体の有機物(TOC)除去性能、全窒素(Total-DIN)除去性能とアンモニア態窒素(NH4+-N)除去性能のまとめ(下図)

このことから、人工湿地は季節・水質・水量の変化に対して比較的高い安定性を有しているといえる。また、排水処理で特に問題となっている窒素除去について詳しく調べたところ、人工湿地では主に微生物反応(硝化と脱窒による窒素ガスへの変換)によって排水中の窒素が除去される機構を明らかにすることができた(図B-4)。
また、この3年間の実証試験期間中に人工湿地のヨシ植生の刈り取りが必要であったが、人工湿地では標準活性汚泥法で問題となっている余剰汚泥は発生せず、汚泥引き抜き・処理の必要はなかった。

図B-4 長期実証試験における人工湿地内での窒素除去機構(流入窒素量とヨシ植生吸収量、 ろ材吸着量、硝化・脱窒反応による消失量と流出量の比較)

2)山梨県の甲斐大和自然学校・教育宿泊施設では202311月から20243月にかけて花壇型Tidal flow人工湿地+太陽光発電パネルを組み合わせた実証試験2を実施した(図B-5)。

図B-5 設置した花壇型Tidal flow 人工湿地(上段、中段)およびその処理水(下段)

この人工湿地では、施設から排出される汚水(生活排水+し尿)を処理し、有機物除去率と窒素除去率、リン除去率は非常に高く、いずれも99%以上の除去率を期間内に維持していた。また、設置した太陽光発電パネルによる発電量が約300Wh/日であり、これによって当施設から1日に排出される6001000L/日の汚水処理が可能であった。
すなわち、人工湿地で必要なポンプ等の消費電力量<発電する電力量となり、外部からの電力投入は不要な電力的に自立した排水処理が可能であることが実証された。
このことは、運転コストを従来の下水処理場や浄化槽に比べて大幅に削減(排水処理に伴うコストを実質ゼロ)でき、かつ、排水処理に伴う温室効果ガスの発生を限りなく削減できたものと評価できる。

 

3)山梨県甲州市の個人住宅合併浄化槽の後段に設置した人工湿地の実証試験3 では、設置する住宅の住民(人工湿地の所有者)と協議しながら人工湿地を設計・デザインするという新しい「My 湿地」の形を試行した(図B-6)。

 

図B-6 甲州市住宅のMy 湿地と環境教育への活用(左)、My 湿地における水耕栽培の様子(右)

さらに、その施工と維持管理を、地域の小中学生と協働で実施し、My湿地の環境教育の価値についても確認した。
また、この実証試験では、①農作物の水耕栽培(ミディトマト)にも利用可能であること(図B-6)、②浄化槽処理水中の残留有機物の追加除去が可能で除去率は8割以上に達し周辺水環境への汚濁負荷の低減効果があること、が明らかにできた。
以上の結果から、従来までの人工湿地の形や意味を拡げて広く普及させる重要な成果となった。

4)より経済力が弱く、生活排水処理への対策の重要度が高い地域への展開を目的として、カンボジア・カンポット村の個人住宅と集会所において人工湿地の実証試験4を行った(図B-7)。

図B-7 カンボジア・カンポット村の個人住宅と集会所に地域住民と協働で施工した人工湿地と、 地域住民による人工湿地の管理運転

現地で入手可能な資材を用いて、地域住民との協働によって人工湿地を施工し、運転管理も地域住民で行う自主管理型の人工湿地を導入した。その人工湿地の有機物除去率は90%以上であり、人工湿地処理水で空心菜などの植物も栽培可能であった。

以上のように、一極集中した下水(実証試験1)、教育宿泊施設(実証試験2)、個人住宅(実証試験3)と開発途上国(実証試験4)のように種々の排水・規模において実施した実証試験によって、a.排水処理性能とその安定性、b.コスト、c.消費エネルギー・温室効果ガス排出、d.ユーザー運転性・管理性、e.環境教育(水育)効果の多元的指標軸に照らし合せてTidal flow人工湿地の汎用性と有効性が示された。

5)一方、奈良県奈良市須川町のイベント宿泊施設・あらやしきにおいては、Tidal flow人工湿地を「干潟ガーデン」と名付け、本技術の普及とビジネス化を加速するために、デザイン・設計・施工・管理と行政手続きをセットにした実証試験5を行った。施設所有者と協議を重ね、所有者の意向を最大限に取り入れ、かつ、適切な処理性能が保証された干潟ガーデンをデザイン・設計した(図B-8)。

図B-8 干潟ガーデンの設計図と運転時の排水の流れ

また、奈良市企業局給排水課(主担当)、保健・環境検査課(臭気や地下水汚染への対応)および廃棄物対策課(生活排水の利活用への対応)と相談しながら、干潟ガーデンを公的に導入する行政手続きを日本国内で初めて実施した。これらのデザイン・設計・施工・管理に関するプロセスと行政手続きに関するプロセスをマニュアル化し、ユーザー支援システムとした(詳細はB-2で後述)。

特記事項

水素利用技術および人工湿地において、山梨県甲州市、奈良県、カンボジアを含む多地域において、個々に技術設計して個別の装置で実証試験を行い、それぞれの技術を処理性、経済性、環境性、利用性、付加価値の多元的指標軸で評価して、その有用性と他技術に対する優位性を示すことができた。
また、パイロットスケールだけでなく、実規模スケールの装置を実際に利用できるものとして複数個所に設置できた。甲州市のMy湿地は小さな水(甲州市もメンバー)の伴走を得て住民が主体的に制作、運用しており、その過程には小中学生が継続的に参加(自然塾)していることから、市民科学と環境教育の場にもなっている。

プロジェクト開始当初は、多様な地域に共通して導入できる標準化された技術を開発することを目指していた。しかし、実証試験を実施するにあたり、その地域の社会・経済的背景や土地利用、利用可能な面積、さらにユーザーの導入・購入目的がそれぞれに異なっていることに気づき、標準化されたものだけではそれに十分対応できないこと気づいた。また、この技術開発は、従来までの一極集中型の下水道システムや浄化槽と並んで新しい選択肢を創ることによって、分散型のくらしに対応した小さな水サービスを構築することを目指したものであり、本来の意味からも標準化された技術・製品だけではその目的を十分に達成できないことに気づいた。

多地域・多ユーザーを対象とした試験・試行群によって、このような社会実装に対する「気づき」を得られたこと、その気づきによって個々に技術設計された装置を開発・導入できたことは、本事業の研究活動を通して得られた最大の成果の一つであると考えている。

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