C-2-1 水の経験価値を共体験する場の試行(水めぐりワークショップ) C-2-1水の経験価値を共体験する場の試行(水めぐりワークショップ) 内容・方法・活動 結果 特記事項 ※ 動画が入ります インタビュー記事を見る 内容・方法・活動 結果 特記事項 インタビュー記事を見る 内容・方法・活動 結果 特記事項 内容・方法・活動 山梨大学、山梨県立大学、甲州市がモデレーター、NPO等がコーディネーターとなり、地域住民および移住者、訪問者とも情報を交換しながら互助ネットワーク「共創の場」を形成する。さらに、小さな水サービスの導入とともに、その水サービスを活かした共体験(地域の親水活動、水源保全活動、花木や作物等の栽培・植栽、環境の理解や教育のためのセミナー)を演出する。その結果、社会的効用がどれだけ創出されたかをヒアリングなどによって明らかにする。社会的効用創出の結果を、共創の場あるいは共体験の方法などにフィードバックさせ、改善を図る。 結果 共創の場づくりに向けた基本的な考え方を整理するため、まず地域における水の価値や水をめぐる社会状況について検討を行った。甲州市塩山地域を対象としたフィールド調査や文献調査を通して、住民が水質に対して強い誇りを持ちながらも、水量確保や維持管理の負担、衛生面や給水の安定性、さらには非常時対応など、小規模水道特有の課題が顕在化していることが明らかとなった。一方で、環境社会学の文献からは、地域固有の水を飲む行為が地域環境の保全に資する可能性が指摘されており、機能価値に加え、地域文化や環境保全意識と結びつく多面的な経験価値を考慮する必要性が示唆された。また、共創の場づくりの具体的方法を検討するために行った南都留森林組合、社会福祉法人佛志園、特定非営利活動法人土佐山アカデミーへの現地視察から、多様な主体が楽しみながら参画できる場や、学びと日常体験を柔軟に結びつける場づくりが、地域課題への理解促進やコミュニティ形成にとって有効であることが示唆された。 これら一連の検討をふまえると、水資源を通じた共創の場づくりにおいては、安全性や安定性などの機能価値にとどまらず、その水資源がもつ固有の経験価値を強調することが有効であると考えられる。こうした認識に基づき、フィールドを設定して歴史的・文化的背景に根ざした水の経験価値をエスノグラフィ的手法で掘り起こし、その知見を基にした体験型ワークショップを実施することで、共体験活動のあり方を検証した。フィールドは山梨県笛吹市芦川町上芦川地区に設定した。同地区には古くから用いられてきた用水路があり、1950年代に水道が開通するまでは飲用を含む生活用水として利用されていた。現在は生活上の必要性が低下しているものの、地区住民による用水路の維持管理は継続されており、水音が集落の雰囲気を特徴づける存在となっている。また畑地灌漑用の施設ではこの用水路の水が利用されている。水道はかつて地区の水道組合によって運営されていたが、現在は市の事業として引き継がれている。なお、山梨県甲州市塩山神金地区でも2019年から継続して自営水道の民俗学的・人類学的調査を行なっている。また、2022年からJST助成・やまなしジュニアドクター育成自然塾の小中学生が小さな水と協働した教育プログラムで活動を続けている。紙面の都合でここでは芦川で行われたワークショップ活動を中心に報告する。ワークショップに先立ち、エスノグラフィ的調査として地区住民5名への聞き取りを実施し、地区の歴史、行事、水道開通前後の水利用、用水路の現在の使用状況や管理実態などを把握した。また、プロジェクトメンバーが地区内を観察し、水環境への関心を喚起しうる地点をリストアップした。 図C-2-1 住民への聞き取り調査 図C-2-2 プロジェクトメンバーによる観察 こうして得られた知見をもとにデザインしたワークショップ「芦川で『小さな水』をさがそう」では、「地域の水を地域でつかうこと」を「小さな水」と定義し、参加者が水資源を多面的に体験・理解する機会を提供した。プログラムは大きく3つで構成した。第一に、大学生ガイドによる「水をめぐる集落ツアー」では、用水路脇の洗い場やかつて水車があった場所などを巡り、その歴史的背景や水利用の工夫を紹介した。第二に、「水スポット探し」では、参加者がグループで集落内を自由に探索し、用水路などの特徴的な水環境を観察、記録した。この際、視覚だけでなく水音など聴覚にも注意を向けるよう促し、五感を通じた体験を強調した。第三に、「ミニレクチャー&フリートーク」では、研究者による地区水環境の歴史的背景の再確認や「小さな水」に関する問題提起を行い、参加者同士が感想や考えを共有した。参加者には事前・事後アンケートを実施し、ワークショップ前後での意識変化やワークショップでの体験内容を評価した。 図C-2-3 ワークショップで用いた資料 図C-2-4 ワークショップの様子 図C-2-5 ワークショップの様子 特記事項 アンケート結果から、多くの参加者がワークショップを通じて地域の水環境への関心を高めていたことが判明した。エスノグラフィ的調査を基にした情報提供が歴史・文化的文脈への理解を深め、住民の語りやエピソードが興味を喚起したことがうかがえる。また、自ら探索し、五感で直接体験することで関心がより一層引き出される傾向が見られた。さらに、「自分の地元の水資源について改めて考える契機になった」との声もあり、参加者自身が暮らす地域への意識向上が期待される成果も得られた。一方で、上芦川地区そのものに対する主体的な関与意欲を高めるには至らなかった。本ワークショップを通じて得られた知見をまとめれば、第一に、エスノグラフィ的手法に基づく解説が経験価値に実感を伴うリアリティをもたらすこと、第二に、五感を用いた体験によって水環境の印象が鮮明化すること、第三に、ガイドツアーと自由探索の併用により参加者が独自の「水との関わり」を発見し、創造的な気づきを得られること、である。今回のワークショップでは時間的制約等から当事者意識醸成や創発的な議論について限定的であったが、より深い対話を生み出すプログラム設計や地域住民との双方向的な関わり方を検討することで改善しうると考えられる。山梨県甲州市塩山神金地区では、5年以上にわたり小さな水サービスに関わる住民への聞き取りと水質観測が続いている。この参与的な調査活動を通して、調査者により住民の意識とその背景が理解されていく過程に加え、住民が調査者に影響されながら水運用や居住に関わる判断や行動を探索・再構成する過程が観察されている。同様の双方向的な影響と関係性の変化は奈良市須川町のケースでも認められている。住民と研究者の間に生まれる創発の可能性を期待させる事例である。